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神戸地方裁判所社支部 昭和51年(ワ)19号 判決

原告 株式会社日本クレジットビューロー

右代表者代表取締役 浦木英二

右訴訟代理人弁護士 井岡三郎

同 市橋和明

同 宿敏幸

同 鈴江勝

被告 西尾安弘

主文

被告は原告に対し金六六万八、二七一円及びこれに対する昭和五一年一月一一日から支払済みまで一〇〇円につき日歩五銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の一項は原告において金一〇万円の担保をたてるときは仮に執行できる。

事実および理由

第一  原告訴訟代理人は主文一、二項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その原因として、

一  原告は、昭和四三年七月一五日、被告との間で、被告が原告発行のクレジットカードを使用して原告指定の店舗において商品を購入し、或はサービスの供与を受けるなどした場合、その代金を毎月一五日に締切り、毎月一日から一五日までの分はその月末に、一六日から月末までの分は翌月一五日に原告において右店舗に立替払する、被告は右金員を翌月の一〇日限り原告に支払うこと、被告が原告に対する支払いを遅滞した場合には、右の支払期日から一〇〇円につき日歩五銭の割合による延滞利息を支払うとの契約を締結した。

二  被告は、別紙一覧表の通り、昭和五〇年九月一一日から昭和五〇年一一月二〇日の間に右の店舗において合計金八〇万六、七三一円相当の商品の購入、サービスの供与を受け、原告は右金員を昭和五〇年一二月一五日までに右店舗に支払ったので、被告に対する右同額の支払請求権を取得し、右債権は遅くとも昭和五一年一月一〇日に弁済期が到来した。

三  然るに被告は右金員の内金一三万八、四六〇円の支払をなしたのみで残額金六六万八、二七一円の支払いをしない。

四  よって原告は被告に対し右六六万八、二七一円及びこれに対する右昭和五一年一月一一日から支払済みまで一〇〇円につき日歩五銭の割合による遅延損害金の支払いを求めるため本訴に及んだ、と述べた。

第二  被告は適式の呼出を受けたのに本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面をも提出しないから、民訴法一四〇条三項本文に則り、原告主張事実を自白したものとみなす。而して本訴はいわゆるクレジット・カードに基く取引について、その発行者たる原告が加盟店に立替払いをしたとして会員たる被告に対し代金の支払請求をなすものであるところ、このいわゆるカード取引が多く個人たる消費者によって自由な競争市場における比較的零細少額の日常的取引の場で用いられ、且つ又そこでは発行者の金融上の優越の如き経済的要因も大なるものではないことに配慮しつつ、発行者、加盟店および会員の関係三当事者間の利害を最も適正に調和せしめるに足る法律構成を検討すると、発行者は、会員の依頼に基づき、加盟店とのいわゆる加盟店契約によって、会員の将来債務につき加盟店に対し保証をなすと解するのが相当である。発行者は保証人として、会員が加盟店に対して有する抗弁権を、会員がこれを放棄したと否とに拘りなく行使する権利を有し、且つ会員がこれを明示的に放棄していない限り、会員から通知を受けた抗弁事由は加盟店に対していちいちこれを援用すべき義務がある。そしてクレジット・カードの発行は、本件を含めて、多くの場合商事保証になるので、発行者は催告、検索の抗弁権を有さず、非商人が発行者たるときには右の各抗弁権はこれを放棄しているものと解するのが相当である。尚発行者が予め通知を受けない事項については民法四四三条一項の適用を否定しなければクレジット・カード取引の支払機能そのものを損うことになろう。このようにしてなされた支払につき、発行者は会員に対する委任事務処理費用の償還請求権を有し、これに対して会員は、発行者とのいわゆる会員規約において抗弁権を明示的に放棄しておらず且つ履行期前に予め抗弁事由を発行者に通知した場合でなければ、もはや自己の売買契約上の抗弁をもってこれに対抗できない。そしてかかる解釈は、加盟店が発行者に対して第一次的に権利を行使すべき取扱いである点との間に矛盾を生じるようにも見えるけれども、加盟店契約においてかかる権利行使の特約を(多くは黙示的に)なすことは、逆に主たる債務者たる会員に対して第一次的に請求すべしというのではないのであるから、結局この法律関係についての前述解釈に何ら抵触するところがない。これに反しクレジット・カードに商業信用状や指図の法理を適用すべしとなし、或は発行者は会員の依頼に基づいて併存的債務引受をなすという立場は、会員が個別売買契約上取得する抗弁を主張する余地を理論上封ずる結果となるが、特約によらず、一律にかかる結果を肯定することは、前述のカード取引の実際からみて適正なものではなく、いずれも加盟店の法的地位を強化する分だけ会員のそれを劣弱ならしめることになって正当でない(ただし、加盟店契約をもって発行者の債務引受の予約と解すると右の難点は解消するが、加盟店が予約完結の意思表示をする時まで会員がもっぱら代金支払義務を負担することになって不当である)。原告主張にかかる本件立替払金の支払請求は、ひっきょう、右の委任事務処理費用の償還請求として理解することができるので、これを正当として認容すべく、民訴法八九条、一九六条一項に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本喜一)

〈以下省略〉

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